皮をむいて実そのものを味わう以前に、
何か言えることがあるかもしれない。
未熟で、分かることなんてひとつもないけれど、
甘夏をひんやり握る、
このおもたさを味わう、
顔を寄せて匂いをかぐ、
ことなら少し、できる。
バナーデザイン 河野唯
夏がきらいなのに、夏の記憶ばかりが美しいのはなぜだろう。
夏がきらいです。
私は暑がりだし、それに夏の命はすごく美しいので、春のことなんてすぐに忘れてしまうから。
イギリスの夏は短いという。
日本の夏はやたらと長いですよね。
束の間の秋に、夜の木場公園を歩いて思ったこと。
冬至に向かう電燈で遊ぶ子どもの声とボールの音。
犬が踏む落ち葉の音と、軽装の女と電話の声。
そういえば、家の庭にあったハナミズキの葉が燃えるように色づく秋を、私は好きだった。
あの色。
どうしてこんな大事なことばかりを忘れてしまうのだろう。
「みどりの王国」を読み終わったあと、私はスツールの上でしばらく本を抱きしめていた。
さまざまに錯綜した、光ある庭を思い浮かべて。
YONA Megumi
戎康友 鈴木るみこ
2023
ちょっと前、ある雑誌のバックナンバーをウェブアップしてた時、もうなん度も目にした写真家の名前が目に入ってきて
「まーチョットみてみっか」
とページをめくった。
私はいったい、今まで何を見ていたんだろう、と思いました。
どれも同じだ、といつの間にか私のどこかは思うようになっていた。
私たちは何か発見に対して「これは時間がかかるな」と思うがはやいか「知ってる知ってる」で過ぎてしまうことが多すぎる。観念的な急を要して。
それに対して「ああ、アレね」と興味のないフリをすることがまともであるというていを取る人も少なくない。
怖いのです、今日まで知らなかったことが。知らなかった時間が。
いま自分が感じたことを、ないがしろにはしていませんか。
いま一度、胸に手を、当てなくたっていいから考えてみるのはどうでしょう。
これは路傍の書店員からの、ちいさな提案です。
そういう出合いを、私はもうすこし待ってみようと思います。
YONA Megumi
あれ、私だ、とおもう。
すばらしい抽象画に出合う時、私のどこかはいつもそう思っている。
あれ今こうまんだって言いました?
またこれは違う、ということだけが分かるということがよくある。正解がわからないのに、これではない、ということだけを確信している。
ええ高慢でいいです。
「これから現前してくる世界の予感」小松崎広子
ごくっと息をのむ。
この感覚は、おそらく私たちが生まれるずっと前のこと、ひいては人間なんかが生まれる前から、ずっとそこに、あらわれていたのではないか。
そう、ここは静かだ。
しずかで、まるであなたみたいで、やすらぐ。
私は黙っている時の方がおしゃべりなのだ。
YONA Megumi
鳥が好きです。
彼らのこびないよそおいが大好き。
例えば青い鳥で有名なカワセミなんかもそうですが、彼らの青い羽根は青い色素をもたない。*
なのに青くきらめくなんて、ほんと夢みたいに美しいと思いませんか?
夢で描く、ということをGernerは知っています。
これはシギで、こっちはヒタキ?これはどう見てもアオサギだけど、でもこっちは?
空想と現実のはざまで、彼は得意のデザイン性を持って楽しく描いてる。鳥たちがくわえてるものや、足元に落ちているものもなんだかたのしい。
鳥はみんな、みんな違う。なのにみんな鳥。
鳥は自身の色の素晴らしさ、フォルムの愛さらしさ、声の魅せ方をよおく知っています。
だからこびない。でも決して卑下しない。
そういう本質的な美しさみたいなものを、Gernerはよく知っているし、私たちにそっと教えてくれます。
次作の「Chiens」もたのしみ。
*構造色と言われるもの。光の角度や波長の干渉によって私たちの目には青く見えている。
YONA Megumi
Oiseaux Real And Imaginary Chromatic Inventory Jochen Gerner 2021
「どうしてこの作品が、こんなにも有名で、こんなにも多くの評価を得られるんですかね」
おそらくは半世紀は経ったであろうポップアートについて、私はバカみたいに真面目に聞いた。
私はそれが、聞くのにはいくぶん遅すぎていたし、拙劣な質問なんだと分かっていたので、半端ににやついていたんだけれども、目を合わせた店長はくすりとも笑わない。彼は人の真摯について笑わない。
「作品自体しかりこれを作品だ、これは僕の作品です、って言いきってしまうところに、何か説明のできない凄さがそこにあるんだよ」
長いあいだ、うじうじといじり回していたある問いについて、突破口がすこし、でもその隙間から確実に見えた、と思う瞬間でした。
例えば彼の「カメラワークス」。
そうこれは写真作品ではあるけれど、あすこを繋げたり繋げなかったりして、またひとつの作品を生んでいる。
ココにこの写真を持ってこないでこれをコッチに持ってくるんだ、というところには驚いてしまうし、私だったら足がすくんでしまうような見返りのない確信がこの作品にはある。笑ってしまう。笑ってしまってやられた、と思う。
この夏にはじまった東京都現代美術館の展覧会、ぜひ暑いうちに行きましょう。ぐらぐらとゆれる青い水面の、プールにも行きましょう。
YONA Megumi
この世の万象はすべてメタファーだ、と彼は書いてきた物語のあちこちで言う。だから私は読めば読むほど二重の視線で物語を読んでいることに気がつく。
私と、私を見ているわたしだ。
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』にハッとした人間は一体どのくらい居るんだろう?と私は静かに考えてみる。今は夜なのだ。
そのうちのほとんどは、肩に乗せられた手に気づかなかっただろうな、と思った。それから短くはない歳月が流れた。またかつて振り返ったひとはその顔をすっかり忘れていて、首をひねってまた前を向いた。あの、という私の声が流れてしまった。眠くなってきたから欠伸をした。それでよかった。歩いてゆくひとの気配が遠のく。
私が置いた背表紙を見てムラカミハルキ、と彼女は呟く。
「わたしもよく読んだよ、若いころ。なんにも覚えてないんだけどね」
あなたは言う。
間違った部屋のドアを開けてしまった人が、へたな言い訳をするみたいに。
YONA Megumi
静かで無邪気、真実でみずみずしく、幼くて同時に老成している。
これは真実の虚言だ、と思う。
その言葉をことばとして受け取る前に私は何か気づいている。この揺れを否定しないで、と私のどこかが懇願するように言う。その感情の揺れは、私の場合なみだになって現象になる。
それは限りなく祈りに近い。
神話学者ジョーゼフ・キャンベルが言った「創造的な孵化場」がまさにここにある。
谷川俊太郎は著書のどこかで、自作に対してはいつまでたっても客観的になることができない、と零していたことをふと思い出す。
客観的になれない日々が、どうしようもなく私を作っているのだ。
どうもこの辺りに、詩人・谷川俊太郎の孤高さがあるような気がする。
YONA Megumi
詩人は「んガッと掴んでぱっと放す」ということに長けています。
最近は何でも手放せ、と言いますが「手放す」とは「んガッ」と掴めた人だけが出来る、ということも覚えておく必要があります。
未来とは 過去の方角から走ってくるのだ
物凄いことばに出逢うと「え?何コレちょっと信じられない」と思います。それがどういう意味か、どんな真実が隠されているのかという以前に私は茫然と恍惚と、立ちすくみます。
つまり 死も
生誕の方角から
路線『花のもとにて 春』より
吉原幸子の詩は、もっと自由であっていいということを思い出します。そうだここに広い場所があった、と私はそっと微笑む。
今夜はよく眠れる気がする。
YONA Megumi
ああ今絶対撮り逃した、と思うことがよくあります。
今日私はそれで、撮りたい瞬間を二度逃した。カメラを持っていなかったんです。
2分後、いや明日になっても私は後悔しているだろうと思いながらとぼとぼ通り過ぎます。
写真は決定的な美しさを提供してくれる反面、それは残酷なまでに刹那的です。
そしてそれが刹那的であればあるほど美しいとまあこういった具合です。
白黒写真はなんというか「ずるいな」とまず思います。だってずるい。あんなにものの陰影の効果を最大限に発揮できるものなんてないでしょう。
しかしこれが色づくとどうか。
これは赤だという事実よりも、赤なんだと想像するこの逡巡が美なのではないでしょうか。
そこにもブレッソンの写真の魅力がある気がしています。
YONA Megumi
Landscape Henri Cartier-Bresson アンリ・カルティエ=ブレッソン/1999
「出会うことを恐れすぎてた」
この写真集を開いてまず思ったことはこうだった。
とても上手い写真があなたの目の前にあります。構図や光の入り具合、並ぶ順番も抜かりない。その作風は昨今のニーズにも合っているようです。
でもなんで?今の私にはまったく響いてこない。
そういう写真は、私の内奥にまで触れてくるものよりずっと多い。当たり前である。しかし焦ってはいけない。
写真とは波長が合うかどうか、これに尽きるのではないでしょうか。
波長が合うあの心地よさ。ああだから出会ってしまったのか。出会ってしまったから波長が合うのか。私は出会うことを恐れすぎていたのだ。
あなたがそこで写真を撮っていてくれてよかった。
YONA Megumi
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