本の紹介「三遍回って読書にしょ」
smokebooksの本棚から
書店員兼、美術家の久芳茉澄が選んだ本の紹介
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自分がここにいるということは必ず、両親がいて、さらに祖父母がいることとイコールだ。この本に登場する男性は写真家・森田剛史の祖父にあたる人物だが、わたしたちと同じように、彼にとってもまた、長い間他人だった。
写真集のタイトルである「紀ノ川」は、そんなふたりの故郷を流れる川だ。物心ついてから、目の前の人物が親族であると認識したとして、一体何を話せばよいのだろう。そして彼らは、互いの身近な存在を出し合った。「写真」と「紀ノ川」。
撮影地を指定するのは祖父の方で、一張羅のジャケットを着て、真っすぐに立ちこちらを見ている。
彼が身を置く風景はとても冴えていて、それは限りなく肉眼に近い色で、紙に印刷された。わたしはそのページを、澄んだ空気を吸うような気持ちでめくりながら、9月9日に去った、一人の女性の存在を意識している。
『H21.09.09– 紀ノ川』
森田剛史 写真集
2024年 玄光社
美しさは怖さ。先日東京国立博物館で幕を閉じた、美術家・内藤礼の展覧会「生まれておいで 生きておいで」を鑑賞いたしました。
何人もの人からこの展覧会について連絡をもらっていて、その注目度はとても大きかったと推測します。そしてわたしは、彼女の作品を見てすっかり怖気づいてしまいました。
どうして怖いと感じたのか。そのヒントになるような言葉が、過去の展覧会図録の中にありました。哲学者の星野太によるテキストで、「ひとたびこの空間に足を踏み入れた鑑賞者は、おのれの認識とは裏腹に、終始作品を通じて“見られてしまう”ことになる」。
例えるならば、彼女が作り上げた空間の中で、光の方向に進むてんとう虫のように、自分自身が誘導されていく感覚。わたしはそれに抗いたくなったのかもしれません。
そんなことをうじうじと考えていたら、演出で照明を落とした展示空間の中で、まぶしいほどのスマートフォンのライトを点けて目録を読もうと頑張っているおじいさんがいるではありませんか!
おじいさんその光、作品にめっちゃ反射してる!!
めちゃくちゃ抗ってる!!!
『内藤礼 うつしあう創造』
2020 HeHe
金沢21世紀美術館 展覧会図録
吠える狼の横顔に、背景のポップな花の絵。10年以上前に開催された展覧会なのに、このメインヴィジュアルはよく覚えています。
精神科医の高橋龍太郎氏によるアートコレクションを、美術館ではじめて公開した際の図録です。コレクションを続ける同氏のあたらしい展覧会が現在、東京都現代美術館で開催中です。
改めてこのネオテニー・ジャパンの図録を見たところ、高橋氏がアーティストひとりひとりに愛としか言いようのないコメントを寄せていて、まるでファンレターのよう。
今回の展覧会でも彼が「アート界の女神」と称した草間彌生の作品群を出発点とした、現代美術100本ノックの宝箱をお披露目しています。
展覧会ガイドに「自由で時に暴力的な『こどもの王国』」とありましたが、その言葉通りでした。アクセル全開で駆け回り、かと思えば途端に何かに集中し、全力で泣き笑う。そんなエネルギーに満ちた展覧会を、ぜひご覧ください。
『ネオテニー・ジャパン 高橋コレクション』
2008年 美術出版社
モビール作品で知られるアレクサンダー•カルダーは、最初はエンジニアを志して工科大学へ進学。そこで学んだ幾何学や動力学が、後に作家としての彼の作品に大きく反映されることとなります。2000年に開催されたカルダー展の図録が、久々にニュー荷しました。
「動物と動き。この二つの言葉は芸術において切っても切れない関係にある」。
本書はカルダーの言葉と図版を組み合わせた構成になっており、これは動物のスケッチに添えられた言葉のひとつ。彼は動いているものを目で捉え、一本の線で描く素描を得意としていました。
「動物にはいつも絶え間ない動きが感じとれるのであり、それをうまく描けるように心がけていなくてはならない」。
『Alexander Calder
Motion&Color
アレクサンダー・カルダー』
2000年 社団法人国際芸術文化振興会
表紙の葉先にご注目いただくと、リアルな葉脈がウィリアム・モリスの絵のタッチへと変わっていくのがわかります。植物のエネルギーを絶やさず生かしたデフォルメに、目を惹かれる表紙です。
本書はモリス自身のヒストリーに始まり、手がけた作品を網羅的に紹介しています。その随所に、くるくるの髪とひげを持つモリスがイラストで登場するのですが、これがとても愛らしい。
モリスの盟友である画家・バーン=ジョーンズが風刺画としてモリスを描いたもので、椅子に座ってねむりこけている姿などが描かれており、ゆるキャラのようです。ぜひ見つけてください。
『WILLIAM MORRIS』
Linda Parry
Reprinted 1996 Philip Wilson
そっと誰かの後姿を眺めたり、人の営みに目を背けたり、目の前にあるナン・ゴールディンの写真集にうろたえています。しかしながら、一度開けばページを閉じることのできない、引力を持つ本です。まるで彼女に、やさしく手のひらで両頬を掴まれ、現実はこうよと囁かれているような気がします。
若くして親元を離れた彼女が、「ファミリー」と呼んだ友人、恋人たちの親密な姿を写した写真たち。自分を囲う状況を刻むように残したセルフポートレート。愛と傷みが癒着した、日々の記録が収められています。
今年の春には、ドキュメンタリー映画『美と殺戮のすべて』が日本で公開されていたようですが、わたしは知らずにすっかり見逃してしまいました。
しまった!
『The Devil's Playground』
Nan Goldin
2003 PHAIDON
「もしかしたら、その環境には、たった1音だけあればいいのかもしれない」。
本書出版のきっかけは、作曲家・芦川聡が遺した文章をまとめ、彼の模索と共に環境音楽について考えることだったそうです。タイトルの通りに「波の音を記譜をする」としたら、一体どんな音楽になるのでしょうか。
<窓の外の風景をみながらピアノをひく>
<風景の断片、あるいは音の断片を記録する>
<記録された断片を郵便で送る>
上記は、同じく作曲家の吉村弘による<ナイン・ポストカード>という楽曲の説明です。芦川聡のレーベルからシリーズで発表された作品で、「ほんの一小節の短いフレーズだったので、ポストカードの上にちょうどいい具合におさまる作品になった」と書かれています。
友人達に送っては楽しんだという、最少の音のメッセージ。なんて素敵なやり取りでしょう。
『波の記譜法 環境音楽とはなにか』
小川博司 庄野泰子 田中直子 鳥越けい子 編著
1988年2刷 時事通信社
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