ふしぎなことがありました。急な寒空につられて、今日一番最初に手に取った本は、作家・冬野虹の詩文集『編棒を火の色に替えてから』。
初めて開いたページで彼女の言葉をなぞると、ぴたっと今の気分に密着し、今日はこの本をご紹介しようと思い、一旦棚に戻しました。
すると、直後に入ってきたお客さんが、早々とその本を選んで購入したのです。ページをさらりとご覧になって、よかったからと、迷いのないご様子でした。とってもわかります、その気持ち。どうぞお楽しみくださいという気持ちで、本を包みました。
写真は同じく冬野虹による画集『ロバの耳』。夫で俳人の四ッ谷龍によるテキストを読んでいると、先ほどの出来事に通ずる文面がありました。
彼女が尊敬する舞踏家、ピナ・バウシュを囲んだ懇親会でのエピソード。「乾杯の際、ピナは大勢の人々に見向きもせず、なぜか会場の端にいた虹のところにするすると近づいてグラスを合わせた」。それほどに、彼女は出会った人の多くを惹きつける魅力を持っていたのです。
姉がモダン・ダンスの踊り手だったことが、彼女の繊細な線描に通じています。指の先にまで神経を行き渡らせるような、身体の動作が織りなす線描をご鑑賞ください。
『ロバの耳』冬野虹画集
2024年 素粒社
新品