自閉症スペクトラムへの扉 by HICKEY 第5回

 

終わりが見えないトンネルの中にいるような状況が続いています。

澄んだ青空。桜の開花。この春はいつもよりも自然の美しさに癒されますね。

不安な日々ですが、皆さまお気をつけてお過ごし下さい。

 

突然ですが、4月2日は国連が定めた『世界自閉症啓発デー』だとご存知ですか?

自閉症に関する理解を深め、自閉症のある人を含めた、すべての人が過ごしやすい世界を実現していくための日です。

 

1月のある寒い朝の出来事です。

通勤電車から降りてふと横に目をやると、隣の車両から裸足の男の子が降りてきました。

「裸足?!」と驚いたのは私だけではなかったようで、振り返る人達。でもよく見ると、手に男の子の靴を持ったお母さんがすぐ側にいて、男の子は楽しそうに歩いています。

「もしかしたら発達障害や感覚過敏があって、何か裸足で歩かせるような事情があるのかもしれないな。」と、心配する状況ではないだろうと察した次の瞬間、「裸足なんて何を考えているんだ!」と男性が怒鳴って去って行きました。

言われ慣れたような諦めの表情を見せ、目に涙を溜めるお母さん。意に介さず楽しそうな男の子。

その光景を見て胸が痛くなり、「声を掛けようか・・・」と迷っているうちに、その親子は行ってしまいました。

 

 ケースは違えど、他にも似た様な場面に遭遇した事があります。

その度に思うのです。自分には何ができたのだろうかと。

 

最近は子どもにも大人のような「規律」や「自制」を求められる事が増えてきました。

勿論、子どもであってもルールは必要。でも、そのレベルが年々高まっているように感じませんか?

世の中のその流れは、子育て中の母にとってかなりのストレスになるのですが、「規律」「自制」が苦手な発達障害のお子さんを育てるお母さん達は、更にストレスフルである事は想像に難くありません。

だからこそ、困っている姿を見ると「何か出来ることはないのか?」と考えるのですが、これがなかなか難しい。その子の個性や状況に合ったものでなければ、差し伸べた手が逆効果になってしまうこともあるからです。

 

では、周りができる事は何なのか?それは「知る」「見守る」事なのかもしれません。

でも身近に当事者がいなければ、その種の本を手に取ったり、知ろうとする機会は少ないのが現実。

ということで、今回は私が『アート』という違う入口から偶然知った、自閉症スペクトラム関連の本を3冊ご紹介します。

 

 1.「すずちゃんののうみそ」 文:竹山美奈子 絵:三木葉苗 監修:宇野洋太(岩崎書店)

 

 

出会いはこの1枚の絵からでした。

「なんて美しい配色と、優しい絵なのだろう。」と心惹かれたのがきっかけです。

 

自閉症スペクトラム(以下ASD)のすずちゃんのお母様・竹山美奈子さん(blog https://takesuzu.exblog.jp  Instagram @unjour.m )が、保育園卒園前に先生とお友達に向けて制作された紙芝居。子供でも理解できる言葉で「ASDとは?」を教えてくれます。紙芝居が評判を呼び絵本となり、日本のみならず、他国でも出版されています。

 

色鉛筆でひと線ひと線丁寧に描かれたことがわかる、三木さんの絵から溢れる優しさ。

そして子供達の何とも言えない魅力的な表情と、構図やアングルの妙。絵を見るだけでもページを開きたくなる1冊です。

 

※写真は紙芝居版の絵になります。絵本版には医学監修が入り、最新の学説に沿って青い丸の位置が変わっています。

 

 

2.「おとひろい」「うたうたい」 作:にしむらあきこ(アトリエ紙と青 オリジナル和綴じ製本)

 

 

 

和紙造形作家のにしむらあきこさん。(HP https://www.paper-blue.com  Instagram @paper_and_blue,@aonokuni)

和紙造形という工芸に取り組むと同時に、言葉も紡いで作品にされています。

彼女の作品との出逢いは「オノマトペのうた」という作品。まだ娘が小さく、慣れない育児に疲弊していた頃に訪れたクラフトイベントで、陽だまりのような光を含んだ彼女の作品に吸い寄せられました。

日頃シャープなものを好む私は、実は普段は手に取らなかったかもしれない彼女の作風。正に「出逢ってしまった」というヤツ。

光を通さない作品でも、そこに柔らかな光がある。その光は単に色彩のマジックなのではなく、たしかにそこに内包されているのです。それが彼女の作品の最大の魅力だと思います。

ASDの息子さんを子育て中だと知ったのは、後のことになります。

「おとひろい」は言葉をもたない子どもから見える世界を。

「うたうたい」はそれを見つめる母親のお話です。

一見重いテーマだけれど、違う境遇の人の心にもスッと入る不思議な魅力があるこの本。それはきっと、作品・言葉の双方から慈愛と希望を感じるから。

一般の本屋さんではお取り扱いがありませんが、イベントやHPでの販売他に、東村山市中央図書館や千葉県浦安市の猫実珈琲店さん、東京都東村山市百才内の紙と青(にしむらあきこさんアトリエ)で手に取っていただけます。

 

3.「dear my sister」 文:三木 葉苗 絵:三木 咲良 発行者:杉山 聡(Bonami)

こちらは「いつか手にしたい!」と、思い続けている1冊です。

「すずちゃんののうみそ」の絵を担当されている三木葉苗さん所属のBonami(HP http://atelierbonami.com  Instagram @hanaesatoshi)は、活版印刷と手製本つくりのアトリエです。Bonamiメンバーである三木さんの妹・咲良さんはASDです。

 

見てください。この咲良さんの美しいドローイング。右の写真はスタンプです。

これだけでも手に取ってみたくなりませんか?思わず声をあげるほど、一瞬で心を奪われました。

咲良さんの絵に、活版印刷の懐かしくあたたかな文字が加わり、丁寧に作られた手作業の本。作業の様子はこちらです。→ http://atelierbonami.com/?p=2777

「妹の描く水玉は、鮮やかに、妹の心のありかを教えてくれる。 

私はただ、それを見逃さないように生きていたい。

それが彼女の姉として生まれた、私の幸せだからだ」

 

この美しい本を手にとって、咲良さんの心の中を覗いてみたいです。

一般の本屋さんでのお取り扱いはありませんが、BonamiさんのHPに販売さてれています。

 

ASDを知ろう!と気構えず、アートブックを見る感覚で気軽にASDへの扉を開けてみて下さいね。

最後ににしむらあきこさんに質問してみました。

……………………

*ASDの子を育てる母として、周囲に伝えたい事や求めることはありますか?

障害を持っているからといって、あれして欲しい、これして欲しい、とこちらから求めるばかりでは、結局自分で線を引いているのと同じことだと常々思っています。

もちろん彼らをこちら側に引き寄せて生活をさせているので、その分の思いやりや気遣いは必要ですが、過剰なものではなく、ただ普通に、一緒にいてくれたら嬉しいなぁと思います。

なんだか不思議なしぐさや行動、言葉が話せずキーキー叫んだり、みんなと同じように遊べなかったり。

知的な遅れのないタイプなら、いわゆる空気が読めない発言で人に嫌な思いをさせたり、こだわりが強すぎて変人扱い。

彼らにも私たちと同じように哀しみがあって、喜びがあって…わかっていても、彼らの言動はあまりにも違うことが多くて戸惑います。

その戸惑いの向こう側を、ちょっと勇気を出して覗いてみて欲しいのです。

勇気を出した向こう側には、きっとあなたにとっても面白い世界が待っています。

 

……………………

 

発達障害は外見から障害の有無がわかりにくい為、「赤いヘルプマーク」(赤地に白の十字とハートのマークのタグ)を付けている方もいらっしゃいます。何かのきっかけで手助けを迷った方は、そこを確認するのも1つの方法です。

「世界自閉症啓発デー」のテーマカラーは青。4月2日は東京タワーがブルーのライトアップになるので、見る事が出来る方は是非。

※本の写真掲載、HPからの引用にあたり、竹山美奈子さん・にしむらあきこさん・三木花苗さんにご承諾をいただいております

 

 

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