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連載コラム

古い手を盗み見る車窓 桜那恵のコラム 甘夏ためつすがめつ15こめ

スーパーの青果コーナーで、レモンが籠の中でごろんごろんと山積みになっていた。

足を止めて、その中の一顆を手にとる。

 

――つまりはこの重さなんだな。――*

 

絵具のチューブから今出したような色、鼻にやる遠い香り、結核をはらんだ手で握る、ひんやりとしたこのかたち。

 

小説をひとつの芸術としてはじめて認識したのは、たぶん高校生の時だった。 

 

陳腐だしありきたりで恥ずかしいんですが、授業の中で読んだ梶井基次郎「檸檬」の一文が、今思えば、すべての始まりだったのかもしれない。

 

当時の私にとって小説とは、起承転結、秩序維持、で最後に何か大きな「予想外」がザッパーンとかっさらってくもの。新しい価値観。教えてくれ「今に変わるはずだ」を、そう思いながら、ほとんど願いながら終末に進んでゆくもの、だったのに。

 

 

(重さ?重さって、もしかしてこのレモンの?)

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